2人の"光速エスパー"


2 人 の "光 速 エ ス パ ー"

〜 漫画世界のエスパーたち 〜


 「光速エスパー」ってご存じですか?いまから三十数年前、1964年に誕生した東芝のマスコット。人類の英知を集めた未来科学の夢、7つの超能力を誇る強化服に身を包み、大活躍を繰り広げるぼくらのヒーローであります。それまでのヒーローが、ロボットやサイボーグ、宇宙人や超能力者といった、いわば手の届かないエリートであったのに比べ、生身の人間が強化服でパワーアップするエスパーは、少年達にとって、より身近な存在だったのです。今だ、多くの人々の心にエスパーが住みついているのも、「ひょっとしたらボクもエスパーになれるかも知れない」っていう、子供の頃の想いがあったからかも知れませんね。

 エスパーは1967年に三ツ木清隆氏主演で実写ドラマ化もされていて、これが一番メジャーな存在なのですが、原作となった漫画も、2人の名漫画家の手によって実に魅力的な作品になっています。という訳で、ここでは、そんなぼくらの光速エスパーをちょっぴり振り返ってみたいと思います。


2人のエスパー。松本零士版2代目エスパー(左)、あさのりじ版初代エスパー(右)  


エスパー誕生

 エスパーは1964年、漫画家あさのりじ(浅野利治)氏が電機メーカー、東芝のマスコットキャラクターとしてデザインを依頼されて誕生しました。当初は東芝製品の子供向けパンフレットやマニュアル等に登場していましたが、折からの宇宙ブームに、すぐ連載漫画としてスタートする事に。

 当時はロボットを主人公にした漫画が多かった事もあり、何か新機軸を、という事から強化服のアイディアは生まれたそうですが、あさの氏は当初、坂本牙城氏による戦前の人気漫画「タンクタンクロー(鉄球型の鎧に身を包んだスーパー侍、タンクタンクローが活躍する活劇漫画)」を近代化したギャグ漫画が描きたかったそうです。しかし、東芝との契約書を眺めている内に、いつしかエスパー君はすっかり真面目な少年に(いやはや…)。

 連載は当時、光文社が発行していた「少年」という月刊少年雑誌で1966年に開始され、1968年3月号での「少年」休刊まで約2年強続きます。

あさの版エスパーの世界

 「少年」で連載されていた初代エスパーが一応、宣弘社でテレビ化されたエスパーの原作になります。テレビ放映以前の初期の作品が、どういう世界だったのかは不勉強にして私も知らないのですが、当初のエスパーは強化服のデザインが若干異なり、背中のボンベが伸縮可能な細いステー(支柱)で支えられる様な構造になっており、飛行時には、このステーを伸ばした先にボンベが付いた様な形で飛行する設定になっていた様です。

 テレビ放送後の作品は基本的にテレビ版と同じ設定になっています。主人公は当然、東ヒカル少年であり、エスパー星人の両親や朝川博士、テレビ版の進行に合わせてエスパー2号も登場します。この時期のエピソードは、テレビ版のエピソードを漫画化したものと、あさの氏によるオリジナル作品との混成になっている様です。

あさのりじ「光速エスパー」より    

 あさの版エスパーは、少年漫画の王道を行く作風と、簡潔な線による洗練されたキャラクター描写が特徴で、特に主人公エスパーのキャラクターとしてのカッコ良さは、現在でも全くと言って良いほど古さを感じさせません。この辺りは残念ながら実写ではうまく再現できなかった様ですね。漫画にはおなじみのキャラクターも、エスパーの相棒、チカ以外は殆ど(何とミラー博士らしきキャラまでちゃんと登場するのだ!)顔をみせてくれますので、テレビ版を御覧になられた方には、かなりすんなり入って行ける世界だと思います。

  • 従来、本項におきまして、「光速エスパー」の直前の連載が「発明ソン太」という記述をしておりましたが、このページをご覧になった方から2作品の間に「とびこめビキタン」という作品があるとのご指摘を頂きました。まったくもってこちらの認識不足で申し訳ありません。お詫びして訂正いたします。


【 あさの版エスパー単行本、遂に発売:2005/09/19 】UPDATE!

松本版エスパーから遅れる事、実に22年!遂にあさの版エスパーの単行本が刊行!

松本版エスパーが朝日ソノラマで復刻された直後には、引き続いてあさの版エスパーの復刻も検討されていたらしいのですが、残念ながら実現には至らず、あさの版エスパーの全貌は長い間謎に包まれていましたが、このたび復刻漫画を続々リリースされているマンガショップさんから何と単行本として発売!まさかこんな日が来ようとは!!

巻末にはモノクロながら「少年」連載時の全扉絵が掲載されるなど資料性も高いです。

原稿は当時の掲載誌からの復刻らしく、部分復刻された「ランデヴーコミック」掲載時よりもカスレやツブレが多いのは残念ですが、何より全ストーリーを通して読めるのが素晴らしい!

改めて読んでみると連載途中での路線変更(オリジナル→TV版準拠への舞台変更)が結構唐突で驚かされます。ひょっとすると連載時は少年漫画誌によくある枠外コメントで、何らかの告知があったのかも知れませんがストーリーの中では全く触れられていませんでした。オリジナルのストーリーも面白かったので多少残念ではあるのですが…

とにかく、この作品を現代によみがえらせてくれたマンガショップさんには大感謝です!

購入はマンガショップさんのサイトで。


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あれあれ、このコメントは?知らないうちにおおしま も参加しておりました(いやはや…)


【 追悼!あさのりじ先生:2001/09/26 】

あさのりじ先生の消息ですが、このページをご覧になった先生のご家族からメールを頂きました。残念な事に先生は昨年(2000年)末に他界されていたそうです。享年62歳との事。ご本人の遺志により告別式は行わなかったそうで、お亡くなりになられた事はごく近親の方しかご存じないそうです。

ただ、先生は最後までイラストレーターとして現役でご活躍されていたそうで、お知らせ頂いたメールに書かれていた「父はちょっと早めに逝ってしまいましたが、イラストレーターとして最後まで現役で、楽しく暮らしておりました。」という一文には思わず目頭が熱くなりました…

何とも若過ぎる訃報に、ファンの一人として愕然としていますが、イラストレーターとして最後まで活躍されていた事が何とも嬉しくありました。ご冥福をお祈り致したいと思います。

なお、右は一緒にお送り頂いた「光速エスパー」の原画画像。先生のご自宅に現存するものだそうで、「少年」誌に掲載された「アンドロイドインベーダーの巻」のカラー口絵です。原画のタッチが良く分かる画像です、ご堪能ください。


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【開始当初のあさの版「光速エスパー」】

 テレビ放送が開始される前のあさの版エスパーですが、最近いくつかの資料を入手でき、徐々にそのアウトラインが見え始めました。元々のエスパーって何だか松本版に近い世界だったみたいです。エスパーの強化服は当初「人間強化服」と呼ばれ、人類の総サイボーグ化支配を企む秘密結社サイボーグスから脱走したノーマン博士によって開発されたという設定になっています。連載開始時はサイボーグスによって両親をさらわれたエスパー(後のエピソードでは光一という名前になりますが、当初はエスパーが本名だった様です。)が、ノーマン博士の強化服を身につけてサイボーグスの宇宙要塞(人工インセキ)に乗り込み、両親を救い出すというエピソードが連載された様です。

ノーマン博士:人間強化服の開発者
ノーマン博士は月で死んだ息子を蘇らせようと完全なるロボットを生み出す。だが博士が人間に対する自信を持たせ過ぎたため、ロボットは機械による人類支配をもくろみ博士を幽閉、秘密結社サイボーグスを組織した。最後、博士は電子頭脳だけになったロボットをハイ・マンガン・スチールのケースに閉じこめる事に成功するが、乗っていたロケットが爆発に巻き込まれ死亡する。

飛行形態のエスパー
「少年」1967年3月号より。テレビ放送開始約半年前の作品。この時期でも飛行時には背中のボンベが延びており、ボンベ自体も発光している様に描かれている。この描写が実写化しづらいためテレビ化に当たって変更されたと考えて良さそうだ。ボンベは当初単純な楕円体の形状だったが、この時期になると上部にエアインテークの様な描写が加えられている。テレビ放送前のエスパーはボンベからジェット火炎を噴射せずに飛行しており、特殊な推進システムを搭載していた様だ。

強化服はどうやって着る?
連載開始当初(1966年)の着脱シーン。エスパーの強化服は背中にチャック(?)が付いており、手袋やブーツも一体だ。着るときはこのままスポンと身体をはまり込ませる。服は着たままだが土足厳禁で靴下もダメらしい(いやはや…)。興味深いのはヘルメットが前後分割構造になっている点。丁度バイザー後方に分割線がある様だ。強化服はエスパーが装着していない状態でも脳波コントロールでロボットの様に活動できる。

強化服はどうやって着る?その2
「少年」1967年3月号より。…かと思うと連載も進行した67年3月号の扉絵では、ヘルメットを脱いだエスパーが登場。構造的にはこちらの方が無理がない感じがする。バイザー越しに見える顔の周囲の部分は、実はウェットスーツの様に頭部を覆っていた様。でもこの構造だと迅速な着脱は無理みたい(いやはや…)。ヘルメットも内部はメカが一杯で結構重そう。

あさの版エスパーの最終回
「少年」1968年3月号より。あさの版エスパーはテレビ化も果たし、人気は最高潮を迎える。「少年」誌上でも数回に渡ってグラフ特集が組まれ、テレビシリーズがフィーチャーされた。しかしテレビシリーズは2クール(26話)の放送をもって1968年1月に終了。漫画の連載も、「少年」誌の休刊によって、この1968年3月号で終止符が打たれる事になった。余談だが、各連載冒頭に付けられた口絵ページはイメージ画的なものであり、漫画本編には直接登場しないシーンである事が多い。

最終回の最終ページ
「少年」1968年3月号より。終刊号である本号では各連載が一斉に終了。強引に最終回を迎えたもの、ストーリー途中で途切れたものと様々だが、「エスパー」の場合は両者の中間といった処。別にこれといった感慨もないまま、殆ど通常のエピソードの様に終わっている。まるで来月もストーリーが展開しそうな感じだ。

松本版エスパーの世界

 「少年」休刊後、エスパーは1968年から集英社発行の「少年ブック」に移り、設定を一新、新たに松本零士氏の手によって1968年6月号から連載が開始されます。松本氏にエスパーが引き継がれる時点で、キャラクター、設定等を総て変更しても良いという条件が提示されていたため、松本版エスパーはあさの版ともテレビシリーズとも全く異なる独自の世界となっています。キャラクターもよりシャープなスタイルとなり、リアルな銃器を携帯するミリタリー色の強いキャラクターになります。

松本零士「光速エスパー」より

 主人公エスパーは、ここでは球状星団B666にあるバシウト星(逆から読むとトウシバになるのだ!)人であり、バシウト星を制圧した独裁勢力に対抗するレジスタンス活動家の子でしたが、独裁者の勢力に追われて地球に不時着。たまたま通りがかった医師、古代博士に救われたエスパーは、次なる目標を地球侵略に向けたバシウトの追跡者から地球を守るべく、博士の研究していた強化服を身に着け、光速エスパーとして活躍する。という内容になっています。

 物語は戦記漫画を得意とする松本氏のカラーを反映し、カタルシス溢れるハードなものとなっています。またエスパーの能力にも明確な限界が描かれ、弱点を突かれて苦戦するエスパーの描写など、あさの版とは180度異なるシビアなもので、本当に死力を尽くして戦うエスパーは、今見ても胸に迫るものがあります。

 一応、松本版エスパーの時点でも、東芝のマスコットキャラクターという側面はそのまま持ち続けていた様で、街の電気屋さんの店頭に置かれるマスコット人形や、シャッターの絵柄等には、制作時期に応じて、あさの版、松本版双方が使われた様です。

ぼくらのエスパー

 さてさて、本当に触りだけでしたが、漫画版エスパーの世界、いかがでしょうか?謎に包まれた(?)エスパー原作漫画に少しでも近付く第一歩にでもなれれば幸いです。エスパーの漫画は当時の掲載誌の他に、

あさの版エスパー:
月刊OUT臨時増刊ランデヴーコミック2 1978みのり書房刊
*「少年」掲載総集編として「恐怖のザボールの巻」「モンスタービーナスの巻」「アンドロイドインベーダーの巻」を収録。

光文社文庫編 「少年」傑作集第4巻 1989光文社刊
*連載最初期の1966年3〜5月号連載分を収録。

松本版エスパー:
「光速エスパー」全3巻 1983朝日ソノラマ刊
*「少年ブック」所載の作品の復刻版。ハードカバー単行本。

サンワイドコミックス版「光速エスパー」全2巻 1987朝日ソノラマ刊
*上記単行本を2巻に再禄し、エスパー以外の特別収録作品を追加した再発版。

等でも目にする事ができます。いずれも絶版だと思いますので、古書店等を探す事になるとは思いますが、見かけた時に読んで見てはいかがでしょうか?そういえば松本版エスパーで、エスパーの地球人としての名前は古代すすむでした。「宇宙戦艦ヤマト」のルーツは、こんな処にもあったんですね。